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No.290 コーヒータイム

 地元のスーパーで、眼について思わず手に取ったマドレーヌ。子供の頃の好物だった。今は美味しい洋菓子が沢山あって、記憶の底に埋もれていたけれど、見つけたら買わずにはいられない。現在頃また流行っている昭和レトロそのもの、のような花柄の紙箱。神田精養軒は2009年に倒産し、その後ファンの熱い要望で復活したそうだ。今どきはマドレーヌと言うと、いわゆるマドレーヌ型で焼かれたフランス菓子。シェル形の平たくて丸味のある形だけれど、ここのマドレーヌは小さいカップケーキ形で、盛り上がった形が特徴。当時はマドレーヌ型など知らないから、この形がマドレーヌと思い込んでいた。

少し厚手のしっかりした銀色のカップに入って、底から縁に向かってギザギザした凹凸、そこにタネを絞って焼き上げるから山型に盛り上がってあの形になるのだろう。今も同じ、変わらぬ形と大きさに焼かれたマドレーヌだけれど、カップは銀色ではなく紙に変わっていた。

 このマドレーヌは1965年に誕生したらしい。私が子供の頃はこのマドレーヌとアーモンドピットがとても好きだった。どこか百貨店などに出掛けて見つけたらねだって買ってもらう、そんなお菓子だった。卵たっぷりの黄味の濃い生地にバターが香って昔と変わらぬ美味しさだ。濃いめのコーヒーを淹れて味わった。

 マドレーヌに合わせて、小さめのカップ&ソーサーを使った。Clarice Cliff (クラリス クリフ England)のもの。カップの尖った持ち手やポットの形状はいかにもアール・デコ調で可愛らしい。幾何学で構成された形状に、筆のタッチが残る優しい色使いの花が描かれている。Clarice Cliff は、もっと強い色の印象がある。それが “らしさ” ではあるけれど、かなり個性的でもあるので使うにもパワーが必要。この Clarice Cliff は安らぎの時間に似合う器だ。

我が家には、このカップ&ソーサーが4客とポットが有る。作られた時代の “モダン” が詰まっていて、どんな場面で使われていたのだろう、と映画のワンシーンの様に思い浮かべて楽しんだ。

器 花柄 カップ&ソーサー と コーヒーポット 

カップ径7,5cm 高5,8cm ソーサー径12,5cm 高1,8cm ポット幅16cm 厚7,5cm 高19cm

作 Clarice Cliff (ENGLAND)

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No.289 壬生菜ご飯

 午後に出掛ける予定が有って、早めに、手軽に昼食を済ませたい時がある。忙しいから時間をかけて用意したり、後片付けをする暇がない。そんな時は、朝食の後片付けの時におむすびを作っておく。卵焼きと常備菜の蓮根のきんぴら、漬物などを一皿に盛り合わせる。これなら常温でそのまま美味しくいただける。ご飯やおかず、と何皿もレンジで温める必要もないし、食後の片付けも楽。冷凍してある出汁入りの味噌と具材を熱湯で溶いて自家製即席味噌汁も加えれば、お手軽ランチの出来上がりだ。

おむすびは、漬物の壬生菜とちりめんじゃこ、白胡麻の混ぜご飯。若い頃、お弁当によく作っていたお気に入りのレシピだ。家族が京都へ出掛け、この壬生菜と大好きなお店の柴漬けを買って来た。忙しい時の賄いランチではあるけれど、この一皿に私の好物が詰まっている。

 盛り合わせたのは、御本の皿。縁がないので盛り沢山に盛っても形になる。作ったのは杉本 貞光(1935〜)。生まれは東京だが、33歳の時滋賀県、信楽に穴窯を開き茶陶の制作を始めた。その6年後、京都の大徳寺 立花 大亀 老師に師事し禅の教えと “侘び寂び” の世界を学んだそうだ。この 寺垣外窯(てらがいと かま)の名の由来もその辺りに有ると思われる。『垣外』は垣根や塀の内外、或いは周囲を意味する言葉だ。聞いたことのない言葉だったがまたひとつ学ばせてもらった。

杉本 貞光はその後も伊賀、長次郎風の黒楽、光悦風の赤楽、高麗茶碗などを研究し、現在もその制作を続けていらっしゃる。大亀老師からは『桃山に帰れ』との言葉を賜ったそうで、その教えに励んでおられるようだ。1990年代からは海外でも個展を開かれている。

この皿のような『御本』は茶碗は有るけれど、皿は珍しいのではないだろうか。飾り気のない優しい美しさに気持ちが落ち着く。時間がなくて忙しい時でも、お皿一枚なら大事に扱える。慌ただしい食事の時間も眼と気持ちは楽しみたい。

器 御本 丸皿  径17cm 高1,5cm

作 寺垣外窯 杉本 貞光

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No.288 茄子の肉味噌

 旬を迎えた茄子。八百屋の店先にはいくつもの種類の茄子が並んでいる。料理によって、焼き茄子や漬物、と使い分ける。時々見かける ”とろ茄子” と言う名前で売られている皮の白い茄子を買って来た。径が8センチほどの太さが有り、皮が張って艶があって美しい茄子だ。

厚めの輪切りにして、香りの少ない白い胡麻油で両面を焼いてからお出汁で煮たら、身は名前の通りとろっとしてとろけるようだ。このままでも美味しいけれど、山椒の実をピリッと効かせた鶏ひき肉の味噌を乗せて食べることにした。

 使った器は古染付。手の付いた花籠に生けた花が見込みに描かれ、器の縁に沿って細い二重の線が回されている。呉須の一色しか使われていないけれど華やかだ。細かい装飾的な絵は加えられておらず、すっきりとした印象を与える。箱は無く、我が家には2客しかない。ふと目に入る度に、なぜか気持ちが浮き立つ。梅雨のどんよりとしたお天気にはこんな器を使って楽しみたい。

器 古染付 花籠向付  径14cm 高4,5cm

作 不明

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No.287 蛸の酢の物

 直径が20センチ程の丸い皿の縁を、大胆に切り取って作ったのだろう。轆轤目が残る舟型の皿は、第二代 清水 六兵衛 のもの。箱も無く、数も揃っていない。3脚有る皿はそれぞれに入(にゅう)やホツ(欠け)が複数あってかなり傷だらけ。とは言え、とても魅力のある皿だ。全体のピンクがかった肌に、窯の中で焼いた時に現れる丸く色が抜けたように白い斑点が散っている。

一度丸く作ったらそれで完成でも良いものを、と思ってしまうけれど、きっと作者には丸い器の中にこの形が隠れているのが見えたのだろう。縁の切り口は水平で、鋭い断面がシャープな印象を与える。他の土を使ったこの形の皿が有っても、きっと素敵だろうなと想像する。備前とか、唐津とか。でもこの優しい色が、このシャープな造形を引き立てているのかもしれない。口周りの鉄釉の幾何学な線が色と形を引き立てている。

 夏至が過ぎ間もなく半夏生を迎える。半夏生は夏至から数えて11日目からの5日間を指す。昔は、半夏生までに田植えを終える、と言った暦の上での目安だったそうだ。各地で食習慣の違いが有るが、関西では稲の根が良く根付くように、と8本足の蛸を食べる風習が有ると聞く。梅雨の最中、さっぱりした酢の物が食べたくなって胡瓜とわかめに真蛸を添えた。

器 舟形小鉢  径14x10cm 高5,5cm

作 第二代 清水 六兵衛

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No.286 水茄子の浅漬け

 近頃は茄子も種類が多い。元々、地域性のある品種はその地方の料理として訪れた時の楽しみであったのだけれど、今は地元の八百屋でも手に入る。私が子供の頃から食べていたのは宮城の長茄子漬け。両親の由来が仙台なので、馴染みがあった。焼き茄子に適した長茄子は主に九州、熊本産で長さが50センチ程もある。こちらも今や地元の八百屋で手に入るのだけれど、宮城の漬物の長茄子は長さがヘタを入れても10センチ程と小さく、形のまま漬け込まれている。

こうしてみると茄子の漬物は多い。長茄子漬けに泉州の水茄子、柴漬けにも茄子が入っている。イタリア料理や地中海料理、中華料理にも茄子は欠かせない。油と相性が良い反面、油っ気の無い漬物でもその実力を発揮する、茄子は不思議な野菜だなあと改めて考える。

今年も水茄子が出て来たので浅漬けを作った。使った小皿は瀬戸の加藤 春岱(1802〜1877 かとう しゅんたい)。多彩な手法を使いこなした方らしいが、この皿は型もの。轆轤でひくのではなく、土を型にはめて作られている。見えにくいのだけれど、見込みと皿の縁に凹凸で模様が付けられている。散っている黒い点は、鉄釉を吹墨で散らしたもの。呉須の吹墨は良くあるけれど、私はこの色だとすぐには吹墨と判らなかった。

 江戸から明治にかけて瀬戸焼の陶工だった春岱は、瀬戸赤津御窯屋三家の一つの仁兵衛家の16代(15代とも)弥宗右衛門景典春山を父に持つ。春岱は技能の高い陶工だったがその人生は紆余曲折だったらしい。その腕を持つ春岱がこの型ものの皿をどんな経緯で作ったのだろう。

轆轤で引いた、陶工の腕を魅せる味のある器とは違うけれど、それとは別の素朴で親しみやすい魅力がある。薄くて形も揃うので、実用的な使いやすさがある。

器 瀬戸 型物 吹墨小皿  径12cm 高2cm

作 加藤 春岱

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No.285 青梅 (生菓子)

 我が家の梅の木になる青梅が、そこに置いてあるのかと思うような生菓子を見つけた。透き通るような翡翠色、大きさも程よい。並べてみたくなって買って来た。中は白餡、外側を青梅色のぎゅうひで包んだお菓子は舌の上で優しい甘さが広がる。さて、何に盛ろうかと考えた。

 これは鷺だろうか。白い鳥が蹲っている。灰色がかった地肌に白い釉薬が、皿の見込みのかなりの部分を覆っている。身体全体を現す細かい描写は無いけれど、鉄釉で描かれた嘴と眼、尾の羽だけで鳥と判る。眼の描写もはっきりしないのだけれど、鳥の視線はこちらに向けられているように見える。

残念ながら皿の一部は割れていて、共直し(ともなおし)でつけられている。皿は 永楽 妙全 の作と思われるが、大事に扱えば直しがあっても支障はない。肩肘張らず、お茶菓子を盛るのにちょうど良いようだ。透き通る青梅の緑が良く映える。

器 鳥小皿 径11cm 高2,8cm

作 永楽 妙全

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No.284 蕗

 今年の我が家の裏庭の蕗の薹は不作だったけれど、蕗はいつものように生えて来て、細いながらも食べごろに育ったので、お出汁で炊いて煮物にした。

蕗の上に茂る白梅の木には、沢山の実が付いている。昨年大量の実がなったから、今年は少ないものと思っていたのだけれど、意外にも今年も豊作。近頃の暑い夏の気候が合っているのだろうか。そろそろ梅仕事も始めなくては、と頭上を眺めつつ蕗を収穫した。

 使ったのは 仁阿弥 道八の絵高麗の小皿。鉄釉で描いた後で、釘で線を加える、鉄釉を削って地肌の色を露出させる技法だ。箱も無く、4枚ある皿は皆どこかに入(にゅう)が有って、ずいぶん使われて来たのだろうと感じる。大きさも手頃で、とても使いやすい。以前の持ち主達もよく使ったのだろうと想像がつく。

 我が家で育つ蕗は、八百屋さんの店先に並ぶ物と比べると太さは半分もなく、皮を剥いたら割り箸程の細さだけれど、毎年の季節の恵みを大事にいただいた。

器 絵高麗 小皿  径11,8cm 高2,5cm

作 仁阿弥 道八

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No.283 マッシュルームのポタージュ

 マッシュルームカット、とヘアスタイルの名前にもなるほど丸くて可愛らしいきのこ。私が子供の頃の髪型がこれだった。前髪を下ろして目の上で切り揃え、髪は耳の下辺りの長さだった。

でもその頃は水煮の缶詰が主流で、生のマッシュルームは見たことが無かった。その水煮の缶詰は、スライスされていていわゆるグラタンやナポリタンなどの洋食に使われていて知ったのが最初だったと記憶している。そのうちに缶詰がスーパーなどで市販され、よく見かけるようにになり、家で作るグラタンにも入るようになった。

きのこ類は、加熱するとかなり嵩が減る。水煮のマッシュルームも小さかったから、生のマッシュルームを初めて見た時は驚いた。丸くて真っ白。でも、その頃のマッシュルームはまだまだ洋食に入っている具材のひとつで、スペイン料理のアヒージョやタパスなど、マッシュルームが主役の料理は日本では知られていなかった。

 マッシュルームの原産地は、ヨーロッパの草原で、フランスやイタリア周辺の牧草地などに自生していたものがルーツとされている。17世紀中頃(1650年頃)からフランスで本格的な人工栽培が開始されたそうだ。日本には明治時代に伝わり、大正時代から栽培されていたらしい。和名は『ツクリタケ』。栽培が始まった初期の頃は『セイヨウマツタケ』とも呼ばれていたそうだ。栽培はされていたけれど、家庭で作るメニューに洋食は少なく、一般的ではなかったのかもしれない。

一年を通して八百屋の店頭にはあるけれど、きのこだから秋、と思い込んでいたら旬は4〜6月と9〜11月の2回らしい。買い物に行くと、きれいなマッシュルームがやたらに目に付き、価格も少し安い。味わいが濃いブラウンマッシュルームと白と両方買って、ポタージュを作った。トッピングにはチャイブの花を散らした。

 器は POOLE (プール ENGLND) のティーカップ&ソーサー。少し厚みのあるマットな質感が、とろみのあるポタージュに馴染む。人は急に気温が上がるこの時期に冷たいメニューを欲するらしい。冷製パスタは真夏よりもむしろ初夏に好まれると聞いた。とは言っても近頃の長過ぎる夏には、また事情が変わってくるのかもしれないなあ、と思ったりもする。あまり胃を冷やすのも考え物だけれど、冷たく冷やしたポタージュは少し胃を元気にする。

器 フラワーモチーフ カップ & ソーサー

カップ 径9,5cm 高6cm 皿 径15,3cm 高2cm

作 POOLE (ENGLAND)

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No.282 普洱茶(プーアール茶)

 北京へ旅した方からお土産に普洱茶(プーアール茶)をいただいた。団茶という形状で、葉を円盤状に固めてある。昔、仕事でよく香港や中国に行っていた頃、この団茶は見た事もあったし知っていた。けれど、それは烏龍茶や普洱茶を直径が20cm程、厚さも3cm近い大きさがあって、それが普通に中国国内で流通しているサイズだった。お茶を淹れる時はその塊を使う分だけ折って崩して使う。

私が長く訪れない間に、普洱茶もお洒落で使いやすい形態に様変わりしたようだ。奥に写る直径4,5cm、厚さ0,5cmほどの小さな円盤状で、一回分に小分けされ、それが7つ重ねられてひとつのパッケージになっている。

 普洱茶は、中国、雲南省を原産とする『黒茶(後発酵茶)』。緑茶に微生物を植え付けて発酵させて作られる。特有の熟成香とまろやかな味わいが特徴で、癖のない飲みやすいお茶だ。脂肪の吸収を抑える働きがあるので、当時ダイエット茶としてお土産にも人気があった。私も20年以上飲んだ記憶が無い。久しぶりに懐かしくいただいた。

 使った器は 第5代 清風 与平。煎茶道具を多く作っている、我が家で大好きな作家さんだ。染付や色絵で余白なく絵や文字で埋め尽くすのが特徴。お煎茶のお茶碗はともかく、茶托まで作ってしまうあたりが『清風さんらしい』と感じる。普洱茶ならこの器だわ、と注いでみた。

器 染付 煎茶碗と茶托 

茶碗 径6cm 高5,2cm 茶托 径10,8cm 高22,5cm

作 第5代 清風 与平

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No.281 ハーブ入ホイップクリームチーズ

 暫く前から気に入っているチーズクリームが有る。ホイップされているので口当たりが軽く、塩味も少ないのでクラッカーに乗せて食べるのにちょうど良い。気温上がって来た今頃に、冷えた白ワインによく合う。

プレーンなままでも美味しいのだけれど、その時の気分で鉢植えで育てているハーブを刻んで混ぜたり、レモンを絞ったりする。このチーズに合わせるのに気に入っているのはチャイブ(Chives)。調べたらヒガンバナ科ネギ属。日本のアサツキのような味や香りで、ネギ系だろうと解ってはいたけれど、ヒガンバナ科とは驚いた。フランス名はシブレット(Ciboulette)、和名は蝦夷葱(エゾネギ)とか西洋浅葱(セイヨウアサツキ)。西洋の物と思い込んでいたら、ちゃんと和名もある。フランス料理のシブレット”も聞いたことがあったけれどチャイブの事だったのか、とまたひとつ学んだ。ちなみにイタリア名はチポリーナ(Cipollina)だそうだ。

数日前にチャイブの花が咲いた。ラベンダー色の、確かに葱だと感じる葱坊主のような可憐な花。そのまま咲かせておいてあげたい気持ちもあるけれど、花も食用になるとの事なので味わってみる事にした。

 チーズを盛った器は Susie Cooper (スージー クーパー) のシュガーボウル。”Tea for two” 2人用のカップアンドソーサー、ティーポット、ミルクピッチャー、シュガーボウルのセットの中のひとつ。デザイン名が判らないのだけれど、マーガレットのような可憐な花が描かれている。バックプリントを見ると、 Susie Cooper の中では後期に作られた物と思われる。彼女の器は、いつ使っても温かみのある質感と色、絵の優しさに癒される。

器 花柄シュガーボウル 径8,8cm 高4cm

作 Susie Cooper (ENGLAND)