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うつわ道楽

No.301 ずいきの煮物

 自分でも驚いている。『うつわ道楽』が300回を越えた。細く長くと思ってはいたけれど、続けられるかどうかは半信半疑だった。アイディアが浮かばなくて四苦八苦することも多かった。後から別な機会に器を使って、この器にはこの料理の方が素敵だったのに、と思う事もある。器は一度きりと決めているので、その時はベストを尽くしていても見返すと後悔や反省がある。

元々、この『うつわ道楽』を始めるきっかけは、この赤絵の四方の鉢だった。まだ、大分若い頃、京都古門前のお道具屋さんで出会った 平安 竹春 の向附。十客で大きな箱に入って、店の片隅に置かれていた。家人とふたりで一目惚れ。ひとつでも重いこの鉢が十もあったら、とんでもなく重いのだけれど、汗をかいて持ち帰った。

平安 竹春 は、何度も登場している古余呂技窯の 2代 川瀬 竹春 の父、初代 川瀬 竹春 の事で、2代が大磯に 古余呂技窯 を開く前、初代が京都時代に使っていた号だ。

磁器の粘土で厚く、四角に作っている。轆轤で丸く作って、それを四角にするのだろうか。更に隅は内側に向かって鍵形に窪み、四隅の器の口から高台まで縦にその窪みが走る。四隅が窪んでいる事で “かど” が取れ、形が柔らかい。覗くと白い地肌に窪みが作る影が印象的だ。赤に鮮やかな緑で描かれた『霊芝』は、中国で2000年前から『不老不死の薬』とされる “きのこ” で『万年茸』の事。不老長寿を願う吉祥文で中国では陶器や絵画によく描かれている。

迫力と色の美しさに圧倒され、よく使って眺めていた。そのうちに好きで集め、縁あって我が家に来てくれた器達をを何かの記録に残したいと思うようになった。その頃から漠然と、私の中でこのタイトルと、初回はこの赤絵の鉢、と決めていた。それから何年経っただろう。思い付いてから始めるまでに時間がかかる。私の中で何かの決断と準備が出来たのか、思い立ってスタートした。切りよく新年からスタートしたために、初回は重箱になった。紆余曲折、中々この鉢を使えぬまま先週300回を迎えた。心機一転、また新たなスタートとなるこの記念の回に、この鉢を使った。

『ずいき』は、里芋の茎のこと。芋がらとも呼ばれる。乾物ならいつでも手に入るけれど、生は季節が限られる。八百屋の店先に見かけた時に買う。下処理に手間はかかるけれど、独特の食感が好きだ。茹でて灰汁抜きしてそのまま酢の物にするとシャキシャキの歯応えが味わえるし、お出汁でゆっくり炊くと、とろける柔らかさ。最後に葛を掛けて餡を絡ませる。おろし生姜も添えて、季節の変わり目の疲れた胃を労わる。

華やかな器だからこそ鄙びた料理が引き立つ。深めの四方で、盛り付けにいつも悩むけれど、凝った料理よりひとつの食材で盛る方が器も料理も映えるようだ。長く使っていても手に取るたび、最初に出会った時の感動を思い出す。

器 赤絵 霊芝図 方向附 十客  径12x12cm 高8,2cm

作 平安 竹春 (初代 川瀬 竹春