No.203 柿なます
柿を買った。果物店や八百屋の店先に、みかんや林檎と共に柿が沢山並ぶのを見ると秋を実感する。艶のある皮肌、大きな柿の果肉はきめが細かく、そのままでも美味しいけれど、生ハムを載せたりサラダに加えたり、と楽しみ方は沢山有る。
ふと、柿の入ったなますを食べたくなった。母が昔作っていた記憶がある。お正月料理のなますは大根と人参で作るけれど、と調べてみたら柿を使ったなますは郷土料理らしい。奈良や岐阜、そして宮城県南部で、主に干し柿をなますに入れるそうだ。やはりどこも柿の産地。宮城県の柿はあまり聞かないけれど、福島県では“みしらず柿”という会津の渋柿が有名で、親戚からよくいただいた。宮城南部、というのも福島が産地なら頷ける。母は宮城出身だから馴染みが有ったのだと納得した。今回は、生の柿を使ってサラダ感覚で食べられるように、そして大根を京都の蕪に変えて銀杏切りにし、優しい食感のなますにした。
盛った小鉢は古曽部焼。少し粗めな土肌、釘で彫って出来た窪みに白の釉薬を掛けて柄を浮き出している。とても素朴で、決して高価な陶器ではないけれど、外側は成形した後にヘラで8面に鋭利に削られていて、職人の技を感じる。
古曽部焼は、江戸時代後期から明治時代末にかけて、大阪府高槻市の古曽部村で五十嵐家4代の陶工が営んだ地方窯(じかたよう)で作られた庶民向けの陶器。この時代は、料理法が飛躍的に進歩し、庶民が使う食器も木製から陶磁器になり、古曽部焼も需要が高かったらしい。日用の雑器を中心に作られていたが、大正初期で一度途絶えた。昭和の終わりになって和歌山県で再興されたそうだが、この小鉢は再興される前の時代、明治の頃の物と思われる。
器 小曽部焼 銘々小鉢 径10,5cm 高4cm
作 小曽部窯